住基ネットとプライバシー問題

まえがき

 「国家百年の計」ということばがあります。これは,国家は将来の長い
間のことを考えて国家事業計画をしていかなければならない,という
意味です。国家は,目先の雨や台風に驚いて行動するのではなく,100
年先をも考えながら治山治水などの国家事業をしなければならないので
す。

 ところが,日本という国はどうでしょう。オリンピックがあるから首
都高速道路を造る,高齢者が増えてきたから医療費を無料にする,住専
が破綻したから税金を投入する,という,その場しのぎの政治を繰り返
してきました。そのため,将来の交通量の増加を考慮しない首都高速は
渋滞の連続となり,さらなる高齢者の増加を考慮しない医療費制度は患
者負担の急激な増加を招き,住専と銀行の関係を考慮しない税金投入は
銀行の破綻を引き起こしました。国家百年の計にはほど遠い政治の連続
です。

 しかし,こんな日本の政治でも,国家の長い将来を考えて判断したと
思われる事業がいくつかあります。ひとつは本四架橋です(実際には
100年先を考えた様子はありませんが)。これは本州と四国の間に3本の
橋を架ける事業で,採算性が悪いということで問題視されるばかりです
が,100年先を見据えて行った事業であったなら,まことにすばらしい
判断がなされたということができます。政治の成果は目先の採算で判断
するものではないのです。

 もうひとつは住基ネットです。住基ネットも反対の多い事業ですが,
将来を考慮した判断であるなら,IT時代に適合した将来性の高い国家
的な事業ということができます。
今,いくつかの市町村では市町村独自の住民カードが配布され,住民
の救急医療や介護,その他の行政サービスに使用され始めています。中
には救急車の中で緊急連絡先や血液型などが読み取れる市民カードもあ
ります。

 行政サービスは地方からIT化されつつあるのですが,全国で3,000を
超す地方自治体がバラバラに住民サービスのIT化を行ったのでは満足
なサービスができなくなります。仕事先や旅行先で救急車に乗せられる
事態が発生した場合を考えれば,日本全国で読取りが可能なカードでな
ければIT化の意味がないのです。

 今ここで,国が率先してこれらの規格を統一したシステムを立ち上げ
なければ,近い将来,住民に混乱と戸惑いを招くことになります。また,
混乱が生じてから統一のためのシステムを立ち上げるのなら,その費用
と時間はさらに大きなものとなります。

 この混乱を未然に防ぐのが住基ネットです。

 住基ネットの反対者の多くは,情報の漏洩,プライバシーの侵害を指
摘します。全国の住民票台帳をコンピュータでつなげばハッカーに狙わ
れる,国民全員に住民票コードを付ければ,コードを基に個人情報のデ
ータベースが作られて,そこから個人の情報が漏れる,という指摘です。

 この指摘に間違いはありません。個人情報が絶対に漏れないという保
証はありません。しかし,今までも個人情報は漏れていましたし,今現
在も住基ネットとは無関係なところから個人情報が盗まれています。
警察官が個人の犯罪情報を流した,電話会社の社員が個人の通話情報
を漏らした,百貨店から顧客の情報が流れた,インターネットのメーリ
ングリストが漏洩した,ホテルの宿泊者名簿が流れた,と毎日のように
報道されています。

 また,このような漏洩事件にならないところでも私たちの情報は集積
されています。税務署,職業安定所,社会保険,学校,進学塾,病院,
クレジットカードなどなど,住所と名前を書けば,書いたところに個人
情報が蓄積されるのが現代の社会です。アンケートに答え,クイズに応
募するだけで,個人情報は集められ売られていきます。

 この本は,住基ネットとプライバシーを考えていただくための本です。
住基ネットを論じると同時に,プライバシーの現状を見直して欲しいの
です。目先の議論で国家百年の計をつぶしてはなりません。

     平成14年12月13日      薄  井  逸  走


         

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