調査官の着眼力

まえがき(抄)

最近の警察は捜査能力の低下が指摘されています。
昔のように足を使って現場周辺の聞き込みをするのではなく、
防犯カメラの映像や電話やパソコンの通信記録などを頼りに捜査をする傾向が強くなったからです。
それは、時代の変化、世の中の変化、地域社会の変化が原因でもあるのですが、
「捜査の勘」という職人技がなくなっているのは、私たち市民も感じるところです。

同じように、税務署の調査能力の低下も指摘されています。
コンピュータのデータで調査対象を選定し、各税務署で集められた取引資料と会計帳簿を照合するような調査が主流となっているからです。

帳簿が手書きだった時代では、記帳された字やインクの様子から、毎日書かれたものなのか、
まとめて書かれたものなのかの判断をすることができたのですが、昨今の会計のコンピュータ化で「調査の勘」を働かすことができなくなっています。

「調査の勘」というのは、長年の調査で生まれてくるものです。
例えば飲食店の場合ですと、店に入った時の印象(例えば、掃除の行き届き具合、テーブルの材質、食器の傷み具合、店員の行動姿勢)で、
その店の売上金額の見当がついたといいます。
そして、長年の調査で行われてきた事とは、消費した割箸の本数で売上高を掴む事、
使用したお絞りの数で来店した客の数を掴む事、仕入れたビールの本数が売上に反映しているかを対比する事、
などなのですが、エコという環境から割箸が塗り箸に変わり、お絞りが使い捨ての紙お絞りに変わっていますので、調査の対象にならないのが現状です。
ただ、ビールの本数の調査は今でも有効なのですが、時間が掛かる地道な調査なので、
若い調査官には好まれていないようで、効果がある手法、速効性のある手法へと調査方法が変わってきています。


このような中にあって、調査官は年間に二十社を越す調査をし、一方の調査を受ける企業の方は五年から七年に一度の調査となっています。
比率にすると、百二十対一です。スポーツの試合でしたら、戦う前に負けている、という感じです。
ですから、調査官の調査方法、処理の方法を知っておくことは重要です。

この本では、四十ほどの事例を掲げていますが、この事例とまったく同じ内容での調査を受ける事は希だと思います。
しかしこれらは、税務調査に対する姿勢、調査官の考え方、調査の進め方などを知る上では重要な四十項目となっています。
税務調査の場面を再現する事が、日頃の経理処理を改善する一助となり、税務調査を受ける心構えの一つとなると確信しています

                   2015年    薄井逸走

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